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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)5383号 判決 1959年10月20日

原告

右代表者法務大臣

愛知揆一

右指定代理人検事

真鍋薫

同法務事務官

並河治

同大蔵事務官

河合昭五

同 中島康

同都練馬区下石神井二丁目一三七八番地

被告

岡本文子

同所同番地

被告(未成年者)

岡本竜蔵

右法定代理人親権者父

岡本恒次

同母

岡本文子

川崎市登戸一七三六番地

被告

岡本六蔵

被告等訴訟代理人弁護士

藤原繁次郎

主文

被告岡本文子は別紙第一物件目録の宅地につき訴外練馬区下石神井二丁目一三七八番地岡本栄次に対し所有権移転登記手続をせよ。

被告岡本竜蔵は別紙第二物件目録の宅地につき訴外岡本栄次に対し所有権移転登記手続をせよ。

被告岡本六蔵は別紙第三物件目録の宅地につきなした所有権移転登記請求権保全仮登記(東京法務局渋谷出張所昭和三二年七月三一日受付第二〇五二一号)及び所有権移転登記(同出張所昭和三二年一一月八日受付第三〇二一六号)の各抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告は主文同旨の判決を求め請求原因として別紙「請求の原因」の通り陳情し被告等の主張を否認し立証として甲第一乃至第六号証第七号証の一、二第八号証、第九号証の一、二同号証の三の一乃至四第一〇乃至第一四号証第一五証の一乃至三を提出し証人河合昭五同木下重雄同高間久則の各証言を援用し乙号証はいずれも官署作成部分の成立を認めその他は不知と述べた。

被告等は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として、原告主張の請求原因事実中、原告主張の日に訴外木下重雄より被告岡本文子に対し別紙第一物件目録記載の宅地について所有権移転登記手続のなされたこと、原告主張の日訴外高間通雄より被告岡本文子に対し別紙第二物件目録記載の宅地について所有権移転登記手続のなされたこと、原告主張の日訴外岡本栄次より被告岡本六蔵に対し、右栄次所有の第三物件目録記載の宅地につき原告主張のような仮登記並に所有権移転登記手続のなされたことはいずれも認めるがその他を否認する。

訴外栄次には税金の滞納はないのであるから、本訴代位に基く訴はいずれも理由がないが、仮りに滞納ありとしても、被告文子は訴外木下より代金三五万円を支払いまた被告龍蔵は訴外高間より代金三九万四三八〇円を支払い、被告六蔵は訴外岡本栄次より代金一〇〇万円を払い、いずれも正当にそれぞれの宅地の所有権を取得したものであるから、原告の本訴は失当であると述べ、

立証として乙第一乃至第三号証を提出し証人岡本栄次の証言を援用し甲第一第五乃至第九号証の一乃至四の各成立を認めその他は不知と逃べた。

理由

成立に争いのない第一号証証人河合昭五の証言により成立を認め得る甲第一五号証の一乃至三に前記証人の証言によると、訴外岡本栄次は原告主張のように国税の滞納のあることを認め得べく右認定を覆すに足る証拠はない。

次に原告主張のそれぞれの不動産について原告主張のような各登記手続の存することは当事者間に争いがない。而して成立に争いのない甲第七号証の一、二、前記証人の証言により成立を認められる同第一一号証に、証人木下重雄、同高間久則、同河合昭五の各証言によれば訴外岡本栄次は金融業者であり、訴外木下重雄や高間通雄に対しそれぞれの所有宅地を担保に供せしめて金員を貸与したこと、訴外木下、高間の前記持分が担保に供せられていた各宅地の内それぞれ別紙目録第一、第二の範囲において、訴外栄次の二男恒次の妻文子名義に、また右恒次文子との間の長男岡本竜蔵名義にいずれも所有権移転登記手続のなされることにより栄次の訴外木下、高間に対する債権が決済せられたこと、第三目録記載の宅地はもと訴外栄次所有名義であつたところ右栄次の長男偉介の子六蔵名義にそれぞれ原告主張のような登記手続のなされたこと、以上の各登記手続には、訴外栄次のみがその衝に当り、訴外文子同竜蔵、同六蔵はもとより、文子の夫恒次、或は六蔵の父偉介も一切この種行為に参与しなかつたこと、これ等不動産取得に関する登記済権利証はいずれも訴外栄次において所持していること、大蔵省事務官河合昭五が本訴提起前になした請査に際し、右文子にせよ、恒次にせよまた偉介にせよ、それぞれ買受けたと称する代金の額や出所について甚だあいまいな態度であつたこと、第三目録記載土地の賃借人訴外金子雄吉に対し訴外栄次より該土地の所有者の変更に関する通知をしていないこと。

以上の各事実を認めることができる。これ等の事より考察してみると、別第紙目録一、第二の宅地についてはその所有権を訴外栄次において取得しながら、その登記名義のみをそれぞれ前記右親族の名義にしておきまた第三の宅地も真実その所有権を孫の六蔵に譲渡したことがないにもかかわらず、その所有名義を形式上同訴外人に移転したものと構作したものと推認することができる。

右認定に反する証人岡本栄次の証言は信用し難く、乙第一乃至第三号証の形式を以ては右認定を覆えすに由なし。而して証人河合昭五の証言によれば訴外栄次は本件目的不動産の外に本件税金を完納するに足る財産を有しないことを認め得る(この点について反証は少しもない)。

してみると、国が訴外栄次を代位してそれぞれの被告に対し、本訴を提起したのは理由があるのでこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用し主文のように判決をする。

(裁判官 柳川真佐夫)

請求の原因

一 訴外岡本栄次(以下滞納者という)は、昭和三十三年六月二十日現在別表のとおり国税を滞納している。

二 滞納者は、昭和二十八年七月二十九日訴外木下重雄に対し金十万円を利息月二分、弁済期間同年八月二十八日等の約束で貸し付け、同人所有の別紙第一物件目録記載の宅地外数筆の土地に対し抵当権を設定したが、右木下が約束どおり弁済しなかつたため、昭和二十九年十月十二日別紙第一物件目録記載の宅地を代物弁済することに合意し、その所有権は滞納者に移転した。しかるに、同日東京法務局練馬出張所受付第壱参八八九号を以つて右木下から無権利者である被告文子(滞納者の子の妻)に対し売買を原因とする所有権移転登記がなされた。

三、さらに、滞納者は、昭和二十八年九月二日及び同年十二月七日訴外高間通雄に対し各十万円を利息月九分の約束で貸し付け、同人所有の別紙第二物件目録記載の宅地外数筆の土地に対し抵当権を設定したが、右高間が約束どおり弁済しなかつたため、昭和三十一年四月十一日別紙第二物件目録記載の宅地を代物弁済することに合意し、その所有権は滞納者に移転した。しかるに、同日東京法務局練馬出張所受付第五八四五号を以つて右高間から無権利者である被告龍蔵(滞納者の孫)に対し売買を原因とする所有権移転登記がなされた。

四 又、滞納者は、昭和三十二年七月三十一日自己の所有する別紙第三物件目録記載の宅地につき、東京法務局渋谷出張所受付第弐〇五弐壱号を以つて、被告六蔵(滞納者の孫)に対し同年四月一日付売買予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記を経、ついで、同年十一月八日同出張所受付第参〇弐壱六号を以つて、被告六蔵に対し同日付売買を原因とする所有権移転登記を経由した。

五 滞納者には、別紙第一ないし第三物件目録記載の宅地の外滞納国税を宗納するに足る資産がないのであるが、(滞納者所有の練馬区南田中町九一九ノ三宅地四〇坪三九は差押中)、滞納者が別紙第一ないし第三物件目録記載の宅地につき、なんら実体上の権利を有しない各被告に対し前記のような登記名義を取得させたのは滞納処分を免れる目的でしたものと考えられる。

六 右のように、別紙第一ないし第三物件目録記載の宅地は、いずれも滞納者の所有に属し、被告らは各宅地につき実体上の権利を有しない。したがつて滞納者は別紙第一物件目録記載の宅地については被告文子に対し、別紙第二物件目録記載の宅地については被告龍蔵に対し、それぞれ所有権移転登記請求権を有し、別紙第三物件目録記載の宅地については被告六蔵に対し所有権移転登記請求権保全仮登記及び所有権移転登記の各抹消登記請求権を有するのであるが、これを行使しないので、原告は前記租税債権を保全するため、滞納者に代位して本訴請求に及んだ次第である。

別紙

岡本栄次滞納国税一覧表(昭和三十三年六月二十日現在)

<省略>

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